「新生VAIO」はどんなPCになるのか
- 2014/07/02
- 08:07
やはりVAIOのオリジナリティが最大の売りなので値段にこだわらず
追及してほしい。ただ激安海外PCが席巻しているいま
高価格帯のブランドが普及するかは疑問ではある。
ソニーからスピンオフする「VAIO株式会社」が7月1日、船出した。同社の代表取締役・執行役員社長に就任した関取高行氏は、お披露目の記者会見の中で「PCの本質を追究し続ける」と語り、同社が「製品の強み」で戦っていくことを宣言した。
ただ現状、VAIO株式会社が成功するかどうか、行方を占うのは簡単ではない。同時に「VAIO Pro」「VAIO Fit」ブランドで3機種が発表されたが、完全な新機種ではなく、ソニー時代に発売していたVAIOのうち、短期的に需要が高いモデルに若干の修正を加えたもので、本当の意味での「新生VAIO」ではない。
言うまでもないことだが、製品で戦う以上、「新生VAIO」がどうなるかが、同社の行方を決める。執行役員副社長の赤羽良介氏も「最初の山をいかに越えるかが問題。そうすれば、色々な可能性が見えてくる」と話す。
VAIO株式会社のお披露目会見で、高取社長は、同社の方針を積極的に訴えかけた。だが、それが具体的にどのような製品になるか、ということについては、驚くほど口が固かった。製品化の時期も「年度末には」「年末には用意したいが……」などと口を濁しており、はっきりとしない。製品で驚きを与えたい、という前向きな思いと、部材調達や開発などの不確定要素があり明言を避けたい思いの両方があるのだろう。
だが、同社の置かれた立場を考えると、おのずと答えは見えてくる。まず第1のポイントは、
登場するVAIOのラインナップ数は少ないということだ。
会社としての規模が小さく、狙う台数も「2015年度に30万~35万台」(高取社長)と少ないため、大量のモデルを用意して大量販売する、というモデルは採れない。赤羽副社長も「商品ラインナップは必要なものだけに絞る」と明言している。高取社長は新生VAIOの経営方針として、「すべてはできない。まず捨てるところを決める」と強調。具体的に捨てるのは、「海外市場」(赤羽氏)であり、同社のビジネスモデルは当然、日本国内向けに支持を得られすい特定の機種だけを作る、というものになる。
製品ラインナップを絞れば、調達するCPUの種類なども減る。インテル製CPUを採用するのは間違いないが、世の中に広まっている半端なものは選べない。インテルが最新のプラットフォームを発表するタイミングに合わせて、そのCPUに最適化したラインナップを作るのがベストだ。だとすれば、インテルが次期プラットフォームの提供を始めると見られている、年末近辺が新機種投入のタイミングと考えるのが自然である。
第2のポイントは、高付加価値モデルが中心になる、ということだ。台数を追わない以上、低価格モデルに展開することはあり得ない。「PCは道具としての真価が問われ始めてる」(高取社長)、「どうしても欲しい、と思わせるものを作り、価値を認めていただく」(赤羽副社長)という言葉からも、それは裏付けられるだろう。
実際問題、タブレットや低価格パソコンのように、大量の部材を調達して「コストパフォーマンスのよい製品」を作るには、240名で国内市場だけ、という新生VAIOの陣容は小さすぎる。
第3のポイントは一般消費者ではなくビジネス向けを重視する、という姿勢だ。ソニーのPC事業は、他社と異なり、ほとんどが個人向けだった。法人・B2B市場向けは全体の10%に満たない。どれだけ比率を伸ばすかについては明言を避けたが、「従来に比べB2B比率を大きく上げる」(赤羽副社長)という方針もあり、絞ったラインナップの中に「B2Bで求められるモデル」が入るのは間違いない。だがそれは、数を売る低価格モデルではなく、ある程度付加価値を認めてくれる顧客向けの製品になるだろう。
そして4つめのポイントは、技術集約型のビジネスモデルを志向する、ということだ。新生VAIOでは製造過程でODM(独自デザインの受託開発業者)をこれまで以上に活用するが、生産量・調達量の小さな企業にとって、ODMの活用は不利な点もある。開発拠点である長野県・安曇野の本社とODMの有機的な活用が課題であることは、新生VAIOの関係者全員が認めることである。
他方で赤羽氏は「技術力のあるサプライヤーは、最新技術をいち早く立ち上げることで訴求したいという気持ちもある」と語り、ODMやパーツサプライヤーから、高付加価値な製品を調達する構えだ。
そのためにも、VAIOを通じて特別なモノ作りを経験してきた多数のエンジニアを擁する、安曇野のノウハウを有機的に生かす。新生VAIOは240名という、ソニー時代の5分の1以下の人数になった。だが、今回の会見にも、ソニー・VAIO時代にヒット商品を手がけたエース技術者・商品企画者が、「VAIO株式会社」のコアメンバーとして顔を揃えていた。チームの個性を生かすことが、他社との最大の差別化になるだろう。
他方、従来の「ソニーとの連携」は弱まる。部材や技術などの面で「ソニーとの関係は続く」(高取社長)としているが、商品性をぶらしてまでソニーの家電との連携を維持する必要はなくなっている。
このように考えると、新生VAIOは。「B2Bを意識した高級・高信頼性ノートPC」「こだわりのある人が購入する軽量モバイルノート」といった、日本でヒットしたかつてのVAIOをより突き詰めた製品になる、と考えるのが自然だ。「PCの道具としての価値」という言葉を多用するところを見ると、単純なタブレット的PCはなく、キーボードやペンなどの入力部分にこだわっているだろう、と予想できる。
もちろん、こんな予想を吹っ飛ばす「驚き」があれば、それに越したことはない。だがおそらく、新生VAIOがまず目指すのは「PCアーキテクチャを使った見たこともない機器」ではなく「誰もが頷くPC」になるだろう。「新生VAIO第一世代」は、洗練されているが意外と保守的な製品になるかも知れない。しかし、「納得してお金を払う」方向性であれば、そう考えるのが自然だ。
追及してほしい。ただ激安海外PCが席巻しているいま
高価格帯のブランドが普及するかは疑問ではある。
ソニーからスピンオフする「VAIO株式会社」が7月1日、船出した。同社の代表取締役・執行役員社長に就任した関取高行氏は、お披露目の記者会見の中で「PCの本質を追究し続ける」と語り、同社が「製品の強み」で戦っていくことを宣言した。
ただ現状、VAIO株式会社が成功するかどうか、行方を占うのは簡単ではない。同時に「VAIO Pro」「VAIO Fit」ブランドで3機種が発表されたが、完全な新機種ではなく、ソニー時代に発売していたVAIOのうち、短期的に需要が高いモデルに若干の修正を加えたもので、本当の意味での「新生VAIO」ではない。
言うまでもないことだが、製品で戦う以上、「新生VAIO」がどうなるかが、同社の行方を決める。執行役員副社長の赤羽良介氏も「最初の山をいかに越えるかが問題。そうすれば、色々な可能性が見えてくる」と話す。
VAIO株式会社のお披露目会見で、高取社長は、同社の方針を積極的に訴えかけた。だが、それが具体的にどのような製品になるか、ということについては、驚くほど口が固かった。製品化の時期も「年度末には」「年末には用意したいが……」などと口を濁しており、はっきりとしない。製品で驚きを与えたい、という前向きな思いと、部材調達や開発などの不確定要素があり明言を避けたい思いの両方があるのだろう。
だが、同社の置かれた立場を考えると、おのずと答えは見えてくる。まず第1のポイントは、
登場するVAIOのラインナップ数は少ないということだ。
会社としての規模が小さく、狙う台数も「2015年度に30万~35万台」(高取社長)と少ないため、大量のモデルを用意して大量販売する、というモデルは採れない。赤羽副社長も「商品ラインナップは必要なものだけに絞る」と明言している。高取社長は新生VAIOの経営方針として、「すべてはできない。まず捨てるところを決める」と強調。具体的に捨てるのは、「海外市場」(赤羽氏)であり、同社のビジネスモデルは当然、日本国内向けに支持を得られすい特定の機種だけを作る、というものになる。
製品ラインナップを絞れば、調達するCPUの種類なども減る。インテル製CPUを採用するのは間違いないが、世の中に広まっている半端なものは選べない。インテルが最新のプラットフォームを発表するタイミングに合わせて、そのCPUに最適化したラインナップを作るのがベストだ。だとすれば、インテルが次期プラットフォームの提供を始めると見られている、年末近辺が新機種投入のタイミングと考えるのが自然である。
第2のポイントは、高付加価値モデルが中心になる、ということだ。台数を追わない以上、低価格モデルに展開することはあり得ない。「PCは道具としての真価が問われ始めてる」(高取社長)、「どうしても欲しい、と思わせるものを作り、価値を認めていただく」(赤羽副社長)という言葉からも、それは裏付けられるだろう。
実際問題、タブレットや低価格パソコンのように、大量の部材を調達して「コストパフォーマンスのよい製品」を作るには、240名で国内市場だけ、という新生VAIOの陣容は小さすぎる。
第3のポイントは一般消費者ではなくビジネス向けを重視する、という姿勢だ。ソニーのPC事業は、他社と異なり、ほとんどが個人向けだった。法人・B2B市場向けは全体の10%に満たない。どれだけ比率を伸ばすかについては明言を避けたが、「従来に比べB2B比率を大きく上げる」(赤羽副社長)という方針もあり、絞ったラインナップの中に「B2Bで求められるモデル」が入るのは間違いない。だがそれは、数を売る低価格モデルではなく、ある程度付加価値を認めてくれる顧客向けの製品になるだろう。
そして4つめのポイントは、技術集約型のビジネスモデルを志向する、ということだ。新生VAIOでは製造過程でODM(独自デザインの受託開発業者)をこれまで以上に活用するが、生産量・調達量の小さな企業にとって、ODMの活用は不利な点もある。開発拠点である長野県・安曇野の本社とODMの有機的な活用が課題であることは、新生VAIOの関係者全員が認めることである。
他方で赤羽氏は「技術力のあるサプライヤーは、最新技術をいち早く立ち上げることで訴求したいという気持ちもある」と語り、ODMやパーツサプライヤーから、高付加価値な製品を調達する構えだ。
そのためにも、VAIOを通じて特別なモノ作りを経験してきた多数のエンジニアを擁する、安曇野のノウハウを有機的に生かす。新生VAIOは240名という、ソニー時代の5分の1以下の人数になった。だが、今回の会見にも、ソニー・VAIO時代にヒット商品を手がけたエース技術者・商品企画者が、「VAIO株式会社」のコアメンバーとして顔を揃えていた。チームの個性を生かすことが、他社との最大の差別化になるだろう。
他方、従来の「ソニーとの連携」は弱まる。部材や技術などの面で「ソニーとの関係は続く」(高取社長)としているが、商品性をぶらしてまでソニーの家電との連携を維持する必要はなくなっている。
このように考えると、新生VAIOは。「B2Bを意識した高級・高信頼性ノートPC」「こだわりのある人が購入する軽量モバイルノート」といった、日本でヒットしたかつてのVAIOをより突き詰めた製品になる、と考えるのが自然だ。「PCの道具としての価値」という言葉を多用するところを見ると、単純なタブレット的PCはなく、キーボードやペンなどの入力部分にこだわっているだろう、と予想できる。
もちろん、こんな予想を吹っ飛ばす「驚き」があれば、それに越したことはない。だがおそらく、新生VAIOがまず目指すのは「PCアーキテクチャを使った見たこともない機器」ではなく「誰もが頷くPC」になるだろう。「新生VAIO第一世代」は、洗練されているが意外と保守的な製品になるかも知れない。しかし、「納得してお金を払う」方向性であれば、そう考えるのが自然だ。
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