消えた神通力 任天堂が選んだイバラの道 - ヒーローウォーズ攻略投資透析情報局

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    消えた神通力 任天堂が選んだイバラの道


     「年末商戦でハード(ゲーム機)の売り上げが想定した水準に届かなかった。結果は深刻だ」――。社長の岩田聡は顔をしかめ、手元の資料の数字を読み上げた。


    ■「そっぽを向かれているよ」


     2014年3月期の営業損益の見通しは、従来の1000億円の黒字から一転して350億円の赤字になる惨たんたる状況。公約していた「営業黒字1千億円必達」にはほど遠く、3期連続の営業赤字が避けられなくなった。


     据え置き型の「Wii(ウィー)」と携帯型の「ニンテンドーDS」が絶好調だった2009年3月期。任天堂は1兆8000億円を超す過去最高の売上高を記録し、実に5500億円もの営業利益を稼ぎ出した。しかし、この日発表した売上高の見通しは、その3分の1に縮んでいる。




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     公約未達成の岩田は「販売を回復させるのが私の責任。けじめをつけるため、役員報酬はさらに減額する」などと苦しい説明を迫られた。


     しかし、報酬カットなどで経営責任をとる姿勢を示しても、任天堂が復活するわけではない。「ファミリーコンピュータ」の発売以来、30年あまり任天堂を支えてきたビジネスモデルそのものが大きく揺らいでいるのだ。


     不振は、据え置き型ゲーム機の最新版「Wii U(ウィー・ユー)」が象徴している。当初の販売見通しは2014年3月期に年間900万台だったのに、大幅に修正。3分の1以下の280万台まで引き下げた。


     低迷の理由は、スマホで楽しむゲームが予想以上のスピードで広がったことだけではない。あまりに残酷な結末は、発売前から分かっていた必然だったのかもしれないのだ。


     2012年末の発売前、ある中堅ソフト会社の首脳は、任天堂からWii Uについて事前に説明を受けたが、思わず毒づいたことがあったという。


     「こんなハードにうちのソフトは出したくない」


     任天堂が考えていたWii Uの構想があまりに独特で、ソフト会社として付き合うにはリスクが高すぎると考えたのだった。Wii Uの最大の特徴は、タッチパネル方式の液晶画面を搭載した大型コントローラー「ゲームパッド」を使って遊べること。しかし、テレビ画面と手元のパッドの画面の2つで楽しむゲームソフトをつくろうとすれば、開発作業は複雑になってしまう。このゲームソフト首脳は「うちだけじゃない。欧米の会社からも、そっぽを向かれているよ」とまで話す。


    ■「変わらない」宣言にため息


     そもそも、Wii U向けのソフトをつくっても、ゲームパッドを使う遊び方などが独特であるために、ソフト会社はソニーや米マイクロソフトのゲーム機用に作り替えることが難しい。「一粒で二度おいしいビジネス」が期待できず、ソフト会社の離反を招いたのだった。


     任天堂の強みは、人気ソフトとゲーム機の両方を自社で開発し、任天堂のゲームならではの楽しみ方をつくり出してきたことにある。マリオなどの人気キャラクターのソフトが楽しめるのは、任天堂のゲーム機だけ。その人気にあやかろうと、ソフト会社が競って任天堂向けにソフトをつくった。豊富なソフトタイトルが、さらにゲーム機の人気を高める好循環が生まれていった。

    こうした任天堂の神通力がつくったピラミッドこそ、高収益の土台だった。ところが、ゲームは今やスマホやタブレットを含めて様々な端末で楽しむ時代だ。任天堂のように自前ソフトと専用ハードにこだわりすぎれば、新たなユーザーの獲得が進まず、結果として任天堂ファンを減らしてしまう恐れが大きくなっている。


     それに対し、株式市場は「任天堂が過去の成功モデルの欠点を直視している」とは見ていない。「3期連続赤字」の発表から2週間後の1月30日、岩田ら任天堂の経営陣は再び、投資家からの失望を招いてしまった。



    不振の家庭用ゲーム機「Wii U(ウィー・ユー)」も発売直後は、当日販売を求めて列ができたが……(2012年12月、大阪・梅田のヨドバシカメラで)
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    不振の家庭用ゲーム機「Wii U(ウィー・ユー)」も発売直後は、当日販売を求めて列ができたが……(2012年12月、大阪・梅田のヨドバシカメラで)
     東京・紀尾井町のホテルニューオータニで臨んだ経営方針説明会。岩田が事前に「抜本的なテコ入れ策を示す」と話していたため、出席した証券アナリストらの間では、スマホゲームへの参入などへの期待が膨らんでいた。しかし、岩田が話し始めると、会場内でため息が漏れた。


     「(スマホに)任天堂のソフトを供給することはない」「ハードとソフト一体型のプラットフォームは今後も経営の中核だ」……。そうした岩田の言葉は株式市場にとって期待はずれ。新たに示した健康関連事業への参入などは説得力に欠けた。当然、株価は急落した。


    ■ゲームソフト部門という「聖域」


     岩田ら任天堂の経営陣は、何を恐れているのだろう。スマホ向けにゲームソフトを供給すると、「ニンテンドー3DS」などのゲーム機が売れなくなることを心配しているのか。それとも、岩田が話したとおり、「ハードとソフトは一体」への任天堂なりのこだわりなのか。


     あるゲームソフト会社の重鎮は、こう解説する。


     「社内の権力構造のゆがみが一因ではないか。任天堂には聖域がある」


     その聖域とは、専務の宮本茂が率いるソフト開発部門。宮本は、「スーパーマリオ」に「ドンキーコング」、「ゼルダの伝説」、「ポケットモンスター」など人気キャラクターを生み出したヒットメーカー。任天堂の最大の強みであるゲームソフトの開発部隊をコントロールしている。


     54歳になった岩田、そして61歳のスーパークリエイターである宮本。ゲーム業界内では、この2人の微妙なパワーバランスが、判断の遅れの一因とささやかれている。


     「岩田さんと宮本さんは相互不可侵の関係。宮本さんは経営に影響力は及ぼそうという野心はない。逆に、岩田さんもソフト部門の運営に口を挟みにくい。だからこそ、スマホやネット対応といった変化への対応が、ひとつひとつ遅れがちになってしまうのではないか」


     岩田が山内にスカウトされ、任天堂入りしたのは2000年。ゲーム開発会社のHAL研究所にいた岩田の将来性を山内が買った。その2年後に岩田は40歳代前半で社長に就任して以降、「Wii」や「ニンテンドーDS」などで大ヒットを飛ばした。


     しかし、この1年間で、「外様」の岩田を支えてくれた任天堂経営陣たちの顔ぶれは様変わりしている。昨年6月には山内時代の大番頭として知られた波多野信治や森仁洋らが退任。何より、岩田や役員、そして社員たちの精神的な支柱でもあった山内がいなくなった。


     「もし、岩田さんが辞めても、後任がいない。外国人の社長を迎え入れるのではないか」――。クリスマス商戦の不振が伝わってきたころには、こんな噂まで社内で駆け巡ったという。それだけ、社内の閉塞感は深まっている。

    任天堂の危機は、今回が初めてではない。「ディズニートランプ」や「光線銃」といったヒット商品が息切れしたときに、経営が行き詰まりかけたこともある。今は1兆円近くの手元資金があり、任天堂が破綻するような事態は想像しにくい。しかし、この停滞を抜け出せなければ、過去の遺産を食いつぶしていく歴史が始まってしまう。


    ■「少し古くなっているのではないか」



    岩田社長と宮本専務のコンビが任天堂復活のカギを握る (1月30日、東京都千代田区)
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    岩田社長と宮本専務のコンビが任天堂復活のカギを握る (1月30日、東京都千代田区)
     「他社と違うことをするのが任天堂」――。岩田は窮地に陥ってからも、スマホ時代に安易に迎合しない姿勢を守り続けている。スマホに人気キャラクターやゲームソフトを安易に流せば、一時的に業績が上がるかもしれないが、コンテンツの価値そのものを損なう恐れも膨らみかねないからだ。


     しかし、それなら、どうやって任天堂ファンを呼び戻すのか。今までのように国内外のソフト会社は支えてくれない。頼みの綱である宮本部隊には往時の力が残っているのだろうか。


     任天堂と長年の取引がある老舗ソフト会社のトップは、警告する。


     「宮本さんのゲームソフト部隊には今も、100万本単位で売れるソフトを生み出せる。しかし、それらのタイトルは、人気の携帯型ゲームの3DS向けだ。日本の子供たちの人気は絶大だ。しかし、裏を返せば、海外で大きなヒットを飛ばしたり、スマホに親しんだ若者らに受けるゲームをつくれているとは言い難い。少し古くなっているのではないか」


     事実、Wii Uの今後のラインアップは、「マリオカート8」など今までの人気キャラクターに頼ったソフトばかりになっている。ネットへの対応やスマホの台頭などゲームビジネスの前提が猛スピードで変わっていく中で、任天堂が「自社開発のゲームソフトをヒットさせ、ハードも売る」という勝利の方程式を取り戻せるとは限らない。


     あえて王道にこだわった任天堂流には、イバラの道が待っている。
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